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SSSアーティストバイヤーより抜粋
日本の日曜日の風景を思い浮かべてみると、人が溢れ混雑した喫茶店や店の印象が思い浮かぶ。現在の資本主義社会においては、日曜日は社会全体の休息を意味するのではなく、それは単にサラリーマンが務める会社が休日としているだけであって、それ以外の資本主義社会の歯車は依然として稼働状態である。それゆえ日本における日曜日は、街に投げ出されたサラリーマンによって平日よりもむしろ混雑する現象が起こる。日本においては、明治政府が一度1と6のつく日が休日であると定めたが、他国との交易に支障となるため、西洋世界と足並みを揃えるべく日曜日が休日であると定め直した経緯がある。それ以前の時代は、民間における統一の休日の概念がなかったようだ。そうなってくる、西洋キリスト教圏における日曜日の本質的な合意=家で家族と何もしないで過ごすこと=神聖な時間であることが、日本において浸透せずに表面的な輸入文化であることが理解できる。
片やオーストリアは宗教的には伝統性を重視するカトリックを中心とし、言語的にはドイツやスイスと共にドイツ語圏に属し、またその3国はその言語圏をベースとした広域な経済・文化圏を形成している。ウィーンに限っていえば、ハプスブルグ帝国時代から続く人的交流により、ほのかに東欧圏の香りも加わってくる。カトリックの伝統性ゆえ、他国と比較してもウィーンの商店やスーパーマーケットの営業時間は短く、日曜日は原則的に休みであることは揺るぎない。また日曜日は、市内の人の往来もすくない。ウィーンに引っ越してから2年近くが経とうとしている今でもこのスーパーの営業時間の短さには戸惑っているが、経済的な側面からいえば、大多数の他国同様オーストリアも後期資本主義・リベラリズムの時代の枠内であるがえ規制緩和への傾向、多国籍企業により自由競争は推奨されることは日本と同じ状況下である。
今回買い物に出かけたドラッグストアDM(ドロゲリエ・マルクト)はドイツ・カールスエーに本社を置き、中欧で展開するオーストリアでよく見かける店である。そのために、ドイツ製品の割合が比較的高いが、なるべく多くの商品を紹介したいと思って、安価で、純オースリア製品、昔からオーストリアで馴染みのある製品も入れるよう心がけた。その中でも特に臭いに関する日用品の数々は、日本における「消臭」の概念とは全く異なり「芳香剤」傾向が強いものばかりである。例えば、オーストリアに限ったことではないが、なまものの嫌な臭いを軽減するため、さらに臭いで対抗する「臭い付きのゴミ袋」や「自動車用芳香剤」はその代表的なものである。かつて入浴が一般的ではなかったヨーロッパにおいて体臭消しのために香水が発達したように、臭いにはさらに強い臭いで抗うという傾向が見られる。雑にいえば、症状の軽減を目指す処置である対症治療をベースにし近代西洋医学が発達したのと同根である。また、健康的に日焼けした肌が経済的に裕福であることを示す西洋社会ならではのサンクリーム製品も比較的充実している。その中から、チロル地方のチロルナッツオイルを1点追加しておいた。なかなか、こんがり日焼けするために日本のビーチで本気の日光浴は馴染まないのかもしれない。しかし日曜日にこれらの日用品を手に日本における神聖な時間のあり方を思い浮かべるのもよかろう。